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第1回目(前半)「幸せと暮らしを支えるために」
インタビュー
ごあいさつ
幸せと暮らしを支える医療。すなわち、地域の皆さまの生活を支える医療は、クリニック医庵の使命です。
でも、私どものクリニック医師と看護師だけでは、成し遂げられません。薬剤師や訪問の介護士、ケアマネジャーの方々と連携し、サポートしていただくことで、その使命が果たせます。
あまり知られていないその実際をこのレポートを通じてお伝えすることで、個人宅や介護施設にお住まいの高齢期の方が医療を選択するときの一助となれば嬉しく思います。
事務局長 森川悦明
木田 和枝さん
クオール薬局たちばな台店
統括主任 兼 管理薬剤師
森川 悦明
聴き手
事務局長
100人の患者さんが、100人ともご自宅に帰ることが嬉しい
森川
在宅医療に関わるようになってから、どれぐらいになりますか。
木田
もう10年ぐらいになると思います。抗がん剤治療が終了し、緩和ケアを病室ではなく、住み慣れたご自宅で過ごしたいという方々への訪問から始めました。医師から処方箋をいただいて無菌調剤室でお薬をつくったり、ご自宅に伺ってご家族とお話しをしたりするようになりました。そのころ有料老人ホームの「くらら青葉台」で、医庵の吉澤先生と出会いました。
森川
大変なお仕事だと思いますが、続けてきて、どんなことを感じるようになりましたか。
木田
病院でいろいろな治療をして、自宅にもどってきた患者さんの気持ちは、とても辛いと思います。余命宣告があり、ご本人もそれを分かって帰ってきて。それでも100人の患者さんがいたとしたら、100人がすごく嬉しそうなのです。自宅に帰るということは、患者さんにとって大切なことなのだとわかり、それを支える喜びを感じるようになりました。
扱う薬も異なる、在宅医療の薬剤師
森川
在宅医療に関わる薬剤師は、薬局の窓口の薬剤師と、どんな違いがありますか。
木田
薬局の窓口の薬剤師は、午前9時から仕事が始まり、調剤をして、薬の説明をして、服薬が難しい薬だったら、後で飲めているかどうか電話をしたりして、午後6時に業務が終わるという感じですが、在宅医療に関わる薬剤師は違います。在宅医療の薬剤師の出勤時間は遅くて、だいたい午前11時ぐらいです。訪問診療の先生方は日中に往診に出ていますから、処方箋をいただくのは夕方で、それから処方をしたり、臨時にお薬を持って走ったりしますので、仕事が終わるのは午後8時とか9時になります。朝が遅いけど、夜も遅い。それが在宅をやっている薬剤師の毎日です。 また、お薬も、外来で扱っているものとは異なり、点滴、注射、麻薬関係なども必要になります。クオールでは、在宅推進部という部署があって、手厚く研修をしてくれます。
患者さんを看取る、在宅医療の薬剤師
木田
薬局の窓口で働いている薬剤師は、死という場面に関わることは少ないです。治療の薬のことや、化学的なことに詳しくても、薬剤師として死に出会うことはないと思います。それが在宅に訪問するようになると、初めて実際の死に出会うことになります。在宅医療で患者さんやご家族の方々と関わっていると、その時間の想い出が残ります。患者さんが次第に弱っていき、亡くなってしまうとかなり大きなショックを受けるのですが、お亡くなりになった後もご家族をフォローしたり、気分転換をしてもらったりすることがとても大切な時間で、在宅医療の薬剤師として、本当に良い経験ができていると感じます。
今が一番幸せ、と言う患者さんに出会ったことが一生の思い出
森川
在宅医療をされてきて、印象深いできごとはありますか。
木田
私が在宅を始めたころに、全身に癌が広がっていて余命1か月の方との出会いがありました。吉澤先生の患者さんでした。シングルマザーで、障害のある息子さんを育てている方でした。息子さんは施設に入られていて、毎週末、ご自宅に帰っていました。吉澤先生は1週間に1回訪問され、私たち薬剤師も同行していました。 その患者さんは、不安になって吉澤先生に電話すると、いつも優しく応対してもらえると言っていました。私も、休日でもその方の体調が心配になってお電話をしたりして、いろいろお話しをしました。 ご自宅にお伺いするようになって1か月ほど経ったときに、その方から「あなたは薬剤師になって、一番うれしかったことは何?」と聞かれました。とおり一遍の答えだと「患者さんの笑顔」とか言うことになるのでしょうが、私はいろいろ考えてしまい、言葉が出ずにいました。 すると、「じゃあ、あなたの人生の中で一番楽しかったことは、何?」と、聞かれるのです。私は、やはりいろいろ考えて、「こどもを授かって、生まれたときかなあ」と答えたのですが、その方は突然、「私はね。今が一番幸せなの」とおっしゃったのです。 私は、余命が1ヶ月しかないと言われているのに、どうしてそんなことを言うのかと、一瞬えっと思ってしまいました。すると「私はシングルマザーで、障害を持つ息子がいて、今までほかのヒトからこんなにたくさん声をかけられたことがなかった。相談することもできなかった。今、吉澤先生が毎週来てくださり、優しい言葉をかけてくれ、からだもさすってくれる。薬剤師の方も毎週来てくれるし、あなたは心配して電話もかけてくれる。だから、私は今が一番幸せなの」と言ってくれました。 私は、泣きながら車を運転して帰りました。その方は、しばらくして亡くなってしまいましたが、あの日、癌の終末期だったその方に幸せな気持ちを持っていただけて、そういった言葉をいただいて、ああ薬剤師になって、なんて幸せなのだろうと思ったのです。これは薬剤師をやってきたなかで、一番うれしかったことです。一生の思い出です。 そういう機会をいただいたのが、医庵の吉澤先生なのです。だから、そのときから私は、吉澤先生の心からのファンなのです(笑)